本日新患で珍しい疾患を見たので記録しておく。
当該患者は新患で30代女性。処方はゾルピデムのみだったが、新患アンケートの既往歴に変わった病名が記載されていた。それは、
『大動脈弁輪拡張症』
聞いたことが無かったので、調べてみることに。
大動脈弁輪拡張症とは
大動脈弁輪と大動脈弁
左心房と大動脈をつなぐ輪っか状の繊維でできた組織を大動脈弁輪といい、そこに大動脈弁がくっついて圧により開いたり閉じたりすることで血液の逆流を防ぐ働きをしている
大動脈弁輪拡張症
大動脈弁輪が拡張すると、大動脈弁の位置がズレ上手く弁が閉塞できなくなってくる。拡張が進むと、大動脈弁閉塞不全となり血液の逆流が起こることに居より、様々な症状を引き起こす
大動脈弁閉塞不全は徐々に進行するため、発見が遅れることもある。
大動脈弁輪の症状
心不全
進行すると大動脈に流出した血液が左心室に逆流することになり、左心室に過剰な負荷がかかる。その結果、血液を送り出すことが困難となり、左心房から肺にかけて水分の負荷がかかる心不全状態になる。
心不全になると、運動時の息切れや活動時の疲労感、脱力感、足のむくみなどの症状が現れる。
狭心症
大動脈に流れる動脈血の量が減ることにより、心臓を栄養する冠動脈への血流不全が起こり、その結果、胸痛、不快感、運動中の胸の痛みなど狭心症の症状が現れる。不整脈も出るようになる。
診断
初期症状に乏しいため、早期に診断は困難だが、心雑音で分かることもある。
以上を疑われると、超音波検査を行い、心臓の動きや形態を確認。超音波検査で大動脈弁輪の大きさを計測したり逆流の程度も評価できる。心臓カテーテル検査も診断には有効である。
原因
単独で起こることもあれば、「マルファン症候群」や「エーラス・ダンロス症候群」など、結合組織に異常をきたす疾患が原因で起こることもある。また加齢や高血圧で発症することもある。
治療法
大動脈弁輪拡張症の進行度合いにより内服による治療と手術による治療がある。
内科的治療法
大動脈弁輪の拡張の程度が軽く、進行度合いも軽い場合は、内服治療で経過観察を行う。この場合、心不全治療薬が選択される。
新保護作用のあるACE阻害薬、アルドステロン拮抗薬は初期から選択される。その他にも心負荷を軽減させるβブロッカーや利尿剤が選択される。
外科的治療
拡張した大動脈弁輪を根治するには手術が必要。手術を行うことで大動脈弁輪の強度が増し、逆流も生じなくなる。
手術の際には拡張した大動脈弁輪を含む、大動脈基部と逆流を起こしている大動脈弁を入れ替える大動脈基部置換術、また自分自身の大動脈弁を温存して第づ幕を修復する自己弁温存大動脈基部置換術がある。
大動脈基部置換術:大動脈と大動脈弁の入れ替えを同時に行う手術である。問題を起こしている血管と大動脈弁を人工血管と人工弁に置換する。人工弁には機械弁、ヒトやウシ・ブタなどの組織を利用した生体弁があり、手術を受ける人の状況により選択していく。
自己弁温存大動脈基底部置換術:人工弁の持つデメリットを解消するために考案されたもの。大動脈弁輪拡張症では大動脈弁そのものには異常がないので、自分の大動脈弁を温存して使用することができる。人工弁を使用する場合には抗凝固薬の服用が必須であるが、自己弁温存大動脈置換術では不要とされる。
当該Ptはきちんとお薬手帳を持参していたので、手帳を調べてみるとWFを7mg/日服用していた。そして人工弁の置換術も行っているとのことだったので、前者の手術で行ったのだろう。
以上。
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