新患30代の女性で下記の処方を受け付けた。
Rp2.クロミッド錠50mg 1T1× 夕食後 5日分
Rp3.ツムラ温経湯顆粒 5g2× 朝夕食前 14日分
Rp4.プレドニン錠5mg 1T1× 朝食後 10日分
クロミッドと温経湯及び診療科が婦人科だったため、すぐに不妊治療の処方であることは分かった。そしてメトホルミンも何らかの不妊治療に使われることも記憶の片隅にあったので血糖を下げる目的でないことも分かったが、プレドニンの処方目的がイマイチ不明だった。
当薬局は近場に婦人科が無く、婦人科領域で更にホルモン治療は不慣れなこともあり、いつもどぎまぎしながらの対応になる(^_^;)
さて、ひとつずつ処方解析していこう。
グリコラン・メルビンとメトホルミン開発の経緯
グリコランはメトホルミン製剤だが、メトグルコの1日最大用量が少ないバージョンという認識しかない。改めて調べてみるとグリコランが販売されたのは1960年代でなんと私より年上。昔からある薬で1日最大750mg/日まで、75歳以上の高齢者には禁忌となっていた。一方のメトグルコは2010年販売で1日最大2250mg/日まで投与可能。高齢者も禁忌項目には入っていない。
何故同じメトホルミン製剤なのに両者はこんなに違うのだろうか。まずはそこから。
もともとメトホルミン製剤として日本にはメルビン(住友ファーマ)とグリコラン(日本新薬)が販売されていた。しかし1970年代にフェンフォルミンによる乳酸アシドーシスという重篤な副作用が問題となり、用法用量に制限が加えられてきた経緯があった。
しかし1990年代に入り海外では日本の承認用量を大きく上回るメトホルミンを用いた大規模臨床試験が行われた結果、本剤の有効性、安全性が検討され、その有用性が再び評価されていた。
こうした背景から日本でもメトホルミンの用法用量を見直す必要があったため、メトホルミンの新製剤としてトグルコの承認を取得したという。
参考HP:住友ファーマ 開発の経緯
なるほど。メトグルコが開発された経緯は分かった。しかしもともと住友ファーマではメトホルミン製剤としてメルビンを販売していたはず。
それならばメルビンの適応拡大・用法用量の追加でも良かったのではないかと思うが、メトグルコを新たに上市した理由は下記のサイトに書いてあったので引用する。
引用:日経DI「メトグルコはなぜ新薬として出てきたのか」より
メルビンで適応拡大する場合は、メルビンを高用量で使用した場合の臨床データが必要です。でも、適応拡大の申請ができるほど、高用量でメルビンを使用した臨床データはありませんでした。しかし、メトホルミン自体は海外で「Glucophage(グルコファージ)」の商品名でずっと使われてきました。グルコファージなら高用量で使った臨床データがたくさんあるので、それを日本での新薬として導入して、メトグルコとして販売を開始したということです。
ということで、メトグルコは成分的にはメトホルミン製剤だが、グリコランとは保険上別の薬となる。当薬局にはメトグルコ及びそのGEしかないため、疑義照会にてメトグルコのGEであるメトホルミン:MTでの調剤許可を得た。ちなみにグリコランの一般名処方はメトホルミン:GLとなる。
で、肝心のメトホルミンがどうして不妊治療に使われるかと言うと。こちらは実は添付文書的にも適応に載っている。
メトホルミンは多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)に効果があるという。昔は適応外だったと記憶しているが、2022年に適応追加されたらしい。
多嚢胞性卵巣症候群による排卵障害にはインスリン抵抗性や肥満が関与しているケースがあり、メトホルミン内服により妊娠率が上がったというデータがある。
PCOSのガイドラインでもクロミッド単独療法で排卵がみられず、肥満、糖代謝異常、またはインスリン抵抗性を認める症例ではクロミフェンにインスリン抵抗性改善薬(メトホルミン)を併用するように記載されている。
メトホルミン
効能効果:
他嚢胞性卵巣症候群における排卵誘発。
ゴナドトロピン製剤を除く排卵誘発薬で十分な効果が得られない場合に併用を考慮すること。
用法用量:
他の卵巣刺激薬との併用で、通常、メトホルミン塩酸塩として500mgの1日1回経口投与より開始する。忍容性を確認しながら増量し、1日投与量として1500mgを超えない範囲で、1日2~3回に分割して経口投与する。
クロミッド®(クロミフェン)
抗エストロゲン製剤で排卵誘発剤として使われる。
効能効果:
①排卵障害にもとづく非人称の排卵誘発
②生殖補助医療における調節卵巣刺激
③欠乏精子症における精子形成の誘導
用法用量:
①1クール目クロミッドで5日間開始し、無効の場合は100mgに増量。
②1日50mgを月経周期3日目から5日間服用。効果不十分な場合は100mgに増量可能。
①、②とも用量及び期間は100mg/日、5日間を上限とする。(150mgで使用されることもあるらしいが適応外となる)
③1回50mgを隔日服用。
作用機序:
抗エストロゲン作用により血中のエストロゲンが減少
→視床下部へのポジティブフィードバック
→下垂体へのポジティブフィードバック
→下垂体から黄体形成ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)を分泌
→卵胞が刺激され育成される
クロミフェンが精子欠乏症に使用されるのは低テストステロンを改善させ、LH、FSHも上昇させるためである。
さて、最後にプレドニンの処方理由について考えてみよう。
プレドニン
添付文書的には効能効果に副腎皮質機能障害による排卵障害、というものがあったので不妊治療でも使用されるのだろう。
PCOSによる排卵障害の場合に使用される。PCOSでは男性ホルモンの濃度が高いという特徴があるが、男性ホルモンが高いと排卵しにくい。プレドニンは男性ホルモンの働きを抑え排卵しやすくするという作用がある。
クロミッドによる排卵誘発を行うとエストロゲン濃度が低下するため、子宮内膜が薄くなってしまう。プレドニンはその子宮内膜を厚くして着床率を上げる効果もあるとのこと。
以上。
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